なぜ「中小企業法務」なのか?

中小企業の「法務」意識

大企業でも一般市民でも、法律問題は弁護士に相談するのが一般であり、中小企業に比べれば「早い」時期に弁護士にアクセスしている気がします。

大企業であれば、日常的な法律問題は法務部が対応していますが、法務部で対応できない法律問題が浮上すれば、即座に顧問弁護士が対応します。
大企業では、予防法務が適正に実施されているのは当たり前であり、一歩進んで、戦略法務の分野を如何に充実できるかが差別化要因となっています。

一般市民の場合も、弁護士への相談は比較的スムーズと言えます。
もちろん、大企業のように相談できる特定の弁護士を確保しているという人は少ないでしょうが、一般市民が法律問題に遭遇するのは頻繁ではなく、通常は、本人にとっては「人生の一大事」と考える場合が多いので、比較的早い時期に弁護士に相談する(駆け込む)傾向にあるのです。

では、中小企業の場合はどうかと言うと、驚くべきことに、法律問題を弁護士に相談するということ自体が稀であるようです。
この最大の要因は、中小企業の「法務」に対する意識の低さにあるのではないかと考えています。

企業と経営資源の関係を人体と食物の関係に例えてみるならば、人体を動かすエネルギー源である炭水化物などに相当するのが「カネ」、人体を組成するタンパク質などに相当するのが「ヒト」、人体の免疫機能を高めるビタミンなどに相当するのが「チエ」だと考えられましょう。
そして、企業においては、営業・財務が「カネ」に関する活動、労務が「ヒト」に関する活動、法務が「チエ」に関する活動だと位置づけられます。

個人の日常生活においても、空腹時には、サラダやフルーツよりもおにぎりやステーキに手が伸びますし、自分自身の健康に気を遣い始めるのは何かしら大病を患ってからです。体に良いかどうかなどという視点は、忙しい現代人の日常生活では完全に忘れ去られてしまいがちです。

中小企業経営も全く同様です。
経営資源に乏しい中小企業としては、どうしても売上アップや経費削減・資金繰りといった「カネ」にのみ関心が集中してしまい、その結果、[営業・財務重視、労務軽視、法務無視]というパターンに陥り易いということが指摘できます。

となれば、中小企業と弁護士の距離が「遠い」ものになってしまうのは、むしろ自然な流れということなのでしょう。