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交通事故コラム13 人身傷害補償保険をめぐる問題

1 人身傷害補償保険とは

 人身傷害補償保険とは、交通事故の被害者が、自ら保険会社と契約した保険契約に基づき、加害者の賠償責任の有無にかかわらず、保険会社から保険金の支払を受けられるという保険商品であり、

・自分の過失が大きい場合 ・相手が無保険の場合 ・ひき逃げや自損事故であり、賠償義務を負う相手がいないか、相手が不明の場合

など、交通事故の相手方の入っている賠償責任保険では、十分な補償が受けられないケースにも保険が適用できる点に最大のメリットがあります。  これには、加入する自動車保険に当然に組み込まれている場合と、特約とされている場合がありますが、現在では、人身傷害補償保険の付帯率は8割を越えていると言われているそうです。

2 人身傷害補償保険をめぐる問題-加害者側に対する損害賠償請求との関係-

 さて、この人身傷害補償保険をめぐっては、被害者にも過失がある場合の法律上の損害賠償請求権との関係につき、従来から議論がありました。  それは、

「被害者に対して人身傷害補償保険金を支払った保険会社は、被害者が加害者に対して有していた損害賠償請求権を代わりに取得することができる(これを、保険会社による代位取得といいます。)が、被害者にも過失がある事故の場合、代位取得の範囲はどうなるのか?」

という点です。 (裏を返せば、自らにも過失がある被害者が、加害者に対する損害賠償請求より先に、人身傷害保険金を受けとった場合、加害者に対してはいくら請求できるのか?という問題でもあります)。

 この点に関しては、多数の見解が乱立していましたが、主として

ア 裁判基準差額説 …過失のある被害者が、人身傷害保険金と損害賠償金により、裁判基準損害額(過失相殺前の金額)を確保することを認め、それを越える金銭を取得することになる場合のみ、差額を加害者に対する賠償金から差し引き、保険会社が代位取得すると考える見解

イ 人傷基準差額説 …過失のある被害者側は、人身傷害保険金と損害賠償金により、人傷基準損害額を確保できればよく、それを越える金銭を取得することになる場合には、差額を加害者に対する賠償金から差し引き、保険会社が代位取得すると考える見解

という2説が有力であり、アのほうが有力、かつ下級審の判例でも主流でした。  また、裁判基準損害額のほうが、人傷基準損害額よりも高額となるのが通常ですから、当然、アのほうが被害者に有利な結果となります。

 もっとも、ほとんどの事件は最高裁まで争われず、この点に関する最高裁の立場は明らかではありませんでしたが、最近に至り(最高裁判所平成24年2月20日第1小法廷判決)、最高裁が上記アの立場に立つことを明確にし、この点に関する実務上の争いに決着がつけられました。

 したがって、加入率も高いポピュラーな保険商品であることもあり、損害填補のため、今後ますます有効に活用すべきであるといえると思います