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遺言・相続コラム15 相続人に対する預金取引経過開示義務について

預金調査の必要性及び金融機関の取引経過開示義務

 被相続人の有していた相続財産を適切に把握することは、遺産分割の出発点であり、また最重要課題でもあると思います。  被相続人が生前有していた預金の把握がその最たるものであり、相続人は、遺産分割にあたって、金融機関に対し、預金口座の取引経過の開示を求めることになります。

 これについては、

・金融機関は、預金者(及び相続人)に対し、上記のような開示義務を負うか ・相続人が複数いる場合、その一人は、他の相続人の同意を得ずに単独で取引経過の開示を請求できるか

という点が最大の関心事でした。

 この点については、最高裁平成21年1月22日判決が、「金融機関の開示義務を認め、共同相続人の一人は、他の同意なく単独で取引経過の開示を求めることができる」旨判示し、この争点をめぐる実務上の争いに決着がつけられました(また、それ以後、金融機関の対応も大きく変わったそうです)。 2 生前すでに解約されていた預金がある場合

 しかしながら、預金の調査は、被相続人が死亡時に有していたもののみにとどまるとは限りません。  場合によっては、被相続人が生前既に解約している口座や、被相続人の預金通帳等を管理している共同相続人の一人が、勝手に解約した口座の存在が疑われるケース等も考えられます。

 このような場合、他の共同相続人としては、「死亡時に有していた口座だけでなく、解約済の口座等も含めて全て調査し、預金がどこに流れたのか等を突き止めたい」というのが自然な欲求といえそうですが、そのような、既に解約されている口座も含めた包括的な取引経過開示請求は認められるのでしょうか。

 上記の最高裁判決を前提として、このような点につき判断したのが、東京高裁平成23年8月3日判決です。

 この事案は、共同相続人の一人が、金融機関に対し、被相続人の生前既に終了していた預金取引の経過開示を求めた事案ですが、結論としては、裁判所は、相続人側の請求を認めませんでした。  理由としては、

・銀行は、預金契約の解約後、元預金者に対し、遅滞なく、従前の取引経過及び解約の結果を報告する義務はあるが、それは、被相続人の生前すでに完了している。 ・取引終了後の口座も含め、経過開示義務を認めると、(本人確認や相続関係の確認等のため)金融機関側の負担が重すぎる。

といったことが挙げられています。

 高裁レベルの判断ではありますが、取引経過の開示をめぐる実務の取り扱いに一定の影響を及ぼすものといえそうです。  今後も裁判例等の流れを興味を持って見ていきたいと思います。