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交通事故コラム11 緊急車両が当事車両となった場合の交通事故の過失割合

1 GWのまっただ中ですが、いかがお過ごしでしょうか。毎年のように痛ましい交通事故が報道されており、交通安全には細心の注意を払って頂きたいと思います。     さて、今回は、緊急車両と過失相殺の関係について取り上げたいと思います。

2 緊急車両の特殊性

  交通事故訴訟における事故車両は、ほとんどが一般車両ですが、まれにパトカーや救急車、及び消防車(いわゆる緊急車両)が事故の当事車両になることも考えられます。

  一般車両同士の典型的な交通事故の場合、過去の事例の集積により、事故毎に過失割合はほぼ類型化されていますが、緊急車両が当時車両となる場合には、直ちに類型に当てはめて良いわけではありません。   というのも、一般車両の過失割合は、「双方車両が、(主として道路交通法等の)法律上の注意義務にどの程度違反しているのか」といった観点から決せられているのに対し、緊急車両は、その必要性・緊急性等から、法律上様々な特例が認められているからです。

  例えば、緊急車両においては、やむを得ない必要がある場合には、追い越しのためのはみ出し走行等が認められており(道路交通法39条1項)、また、法令の規定により停止しなければならない場合(赤信号の場合や踏切直前等の場合)においても、停止する必要はない(同法39条2項)と規定されています。   他方で、一般車両側については、  「交差点又はその附近において、緊急自動車が接近してきたときは、…車両…は交差点を避け、かつ、道路の左側…に寄つて一時停止しなければならない」(同法40条1項)   として、緊急自動車を優先させる義務が定められています。

3 緊急車両の特殊性が過失割合に影響を及ぼすと考えられる場合

  以上の規定が過失割合にもっとも影響すると思われる事故類型は、「信号機による交通整理の行われている十字路交差点における直進車同士の事故」の場合であると考えられます。

  このような場合、「信号遵守車には、信号違反車の存在を予想して走行する義務は課さない」というのが判例の見解ですから、信号を守って交差点に進入した側には原則として過失は認められません。   ところが、緊急車両の場合は、上記のとおり、赤信号での停止義務が免除されていますので、赤信号での交差点進入は、道路交通法7条違反とはなりません。むしろ上記のとおり、一般車両の側に、交差点を避けて一時停止し、緊急車両を優先させる義務が課せられています。つまり、一時停止義務を負う主体が通常の場合と逆転しており、過失割合もこのことを前提に決定されることになるかと思います。

  もちろん、緊急車両も上記一部の特例を除いては、一般の車両と異なるところはありませんので、「緊急車両がその進行・接近を適切な方法で周囲に警告したかどうか」、「一般車両が緊急車両の接近に気付かなかったとすれば、その原因は何か」、「事故現場の道路状況や交通規制は、どのようなものだったか」等を個別具体的に考慮のうえ、過失割合を決することになるかと思います。

4 上記3では1例だけを取り上げましたが、他にも、     ?緊急車両がセンターラインオーバーをした際、対向車と衝突した場合     ?緊急車両が車線変更した際に、後続直進車と衝突した場合     ?緊急車両が路外から出動した際に、道路を走行してきた車両と衝突した場合   等、いくらでも事例は考えられると思います。このような場合にも、緊急車両・一般車両双方の法的義務を踏まえた上で、個別具体的な事情を総合考慮するという枠組は変わらないのだと思います。       実際に、これらの事故がどの程度頻繁に生じるか、また、自分が弁護士としてこのような事案処理にあたる可能性がどれだけあるかは分かりませんが、このような問題意識を持つことは、非典型的な事故における過失割合について、適切な見通しを立てる一助となると思いますので、これからも研鑽を重ねていきたいと思います。