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遺言・相続コラム9 「相続させる」旨の遺言

本日、東日本大震災からちょうど一年を迎えました。 地震・津波により亡くなられた方に謹んで哀悼の意を表すとともに、被災者の皆様に心からお見舞い申し上げます。
さて、本日のコラムは、「相続させる」旨の遺言に関するものです。
「相続させる」旨の遺言とは、その名のとおり、「長男Aに、○○の土地を相続させる。」といった内容の遺言です。
我が国の遺言実務においては、特定の「相続人」に特定の財産を承継させたい場合、このような「相続させる」旨の遺言が用いられてきました。 これは、遺贈の方法によれば、所有権移転登記手続において、他の共同相続人と共同して登記の申請手続を行わなければならず、また、登記手続に要する登録免許税も相続登記の場合より高い等の問題が生ずることから、実務の工夫により生まれたものでした。 もっとも、その法的性質については、学説や下級審裁判例において争いがありましたが、平成3年4月19日の最高裁判決(いわゆる香川判決)が、「相続させる」旨の遺言は、民法908条にいう遺産分割方法を定めた遺言であり、何らの行為を要せず、被相続人の死亡の時に遡って直ちに当該遺産がその相続人に相続によって承継されると判示し、論争に終止符が打たれました。
その後、「相続させる」旨の遺言は、現在では完全に定着した感があります。 もっとも、より具体的な論点に目をやると、未解決の法的問題も多く、現在までに重要な最高裁判例の集積があります。
最高裁平成23年2月22日判決は、遺言者よりも先に、ある財産を「相続させる」ものとされた推定相続人が亡くなってしまった場合、その遺言の効力はどうなるのかという問題に関するものです。 遺贈であれば、受遺者(遺贈を受ける人)が遺言者よりも先に亡くなった場合、遺贈の効果は生じません(民法994条1項)。これに対し、法定相続では、推定相続人の子が代襲して相続人となるものとされています(民法887条2項)。 「相続させる」旨の遺言については、どのように考えるべきかが学説・下級審裁判例で議論されてきましたが、平成23年判決は、「当該『相続させる』旨の遺言にかかる条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言書の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効果を生ずることはない」と判示し、代襲相続原則否定説を採りました。
平成23年判決は、遺言者よりも先に当該推定相続人が亡くなった場合の遺言の効力を、「遺言者の意思」に係らしめるものです。 そこで、遺言者が、当該推定相続人の子に遺産を相続させたい場合、例えば以下のような条項を加えることで、遺言者の意思を明確化し、遺言の効力に関する無用の紛争を回避することができます。
「遺言者より前に長男Aが死亡した場合、○○の土地は、長男Aの子であるBに相続させる。」
このように、遺言作成の実務においても、最新判例への目配りは欠かせないものと言えます。