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珍犯罪?

当ホームページをご覧の皆様、初めまして。弁護士の石川友裕です。

さてこの度、当ホームページリニューアル後第1回目のコラム更新という大役を任されてしまいました。

どのようなテーマでコラムを書くかずいぶん悩みましたが、初回ということもあり、まずは皆様に興味を持ってもらいやすい分野がよいだろうということで、「珍犯罪集」という名目で、一風変わった犯罪を取り上げてみました。

何せ「珍」犯罪ですので、このコラムをお読みの皆様方にはおそらく一生関わりがないこととは思いますが(もちろん、「珍」でなくても犯罪はいけないことですよ!)、我が国の法律の奥深さ(?)を知っていただければと思います。

 

●「軽犯罪法」

 (ある程度真面目な)法学部の学生であれば、ペラペラと六法をめくったついでに一度は目を通したことがあると思われるこの法律。その名の通り、「えっ、こんなことでも犯罪になるの!?」といったことが列挙されています。

 いくつか例を挙げれば、

 

【第1条4号】

「生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの」

→一部ネットでは、本罪を取り上げて、「ニートは外をうろつくだけで逮捕されるぞ!」などと騒がれていましたが、意外と要件は厳格で、「生計の途がないこと」、「働く能力があること」、「職業に就く意思を有しないこと」、「一定の住居を持たないこと」、「諸方をうろつくこと」の全てを満たさない限り、本罪は成立しません。いわゆる「ニート」の方の多くは一定の住居があると思われますので、おそらく大丈夫でしょう。

なお、本当にこんな犯罪で取り締まりを受けることがあるのか、ということが疑問になりますが、2年くらい前に、奈良県でこの法令違反を理由に現行犯逮捕されたという記事を見た覚えがあります。

 

【第1条22号】

 「こじきをし、又はこじきをさせた者」

→「こじき」の意義については、本法律には何も定めがありませんが、広辞苑によれば、「食物や金銭を恵んでもらって生活する者」とされています。

「させた者」についてはともかく、こじきをしなければ生きていけない状況の方もおられるかと思いますので、「した者」についてまでも処罰対象に含めるのは個人的にはいかがなものかとは思いますが、この法律ではしっかりと処罰対象とされています。

なお、仏教僧の方が行っている托鉢行為は、乞食(こつじき)と呼ばれるものであり、この法律にいう「こじき」とは全く別物です。

 

【第1条24号】

 「公私の儀式に対して悪戯などでこれを妨害したもの」

 →悪戯(いたずら)と聞くと可愛い響きですが、厳かな儀式の場面で行うと、これも犯罪行為になってしまいます。

平成23年度のデータによれば、この罪名に基づく送致件数は0件だったそうですが、悪戯の度が過ぎて偽計・威力の域に達してしまうと、刑法上の業務妨害罪に問われる恐れもあります。私のように悪戯好きの方は、くれぐれもお気を付けください。

 

【第1条26号】

 「街路又は公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、又は大小便をし、若しくはこれをさせた者」

 →軽犯罪法の中では一番有名な条文かも知れません。いわゆる、「立ちションベンも犯罪になる」というやつです。

 プロ野球の助っ人外国人の方なんかは、よく試合中につばをグラウンドに吐いていますよね。条文の文言だけみれば、これも本罪に当たるような気がするのですが・・・

 

 以上、かいつまんで軽犯罪法の条文を見てきましたが、「こんな細かいことでも犯罪になるようでは、おちおち外も出歩けない!」と不安になる方もいらっしゃると思います。

しかし、同法は第4条において、「この法律の適用にあたっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあつてはならない」として、濫用の禁止が定められていることは付言しておきたいと思います。

 

 

●「決闘罪ニ関スル件」

 夕日の照らす河原にて、2つの少年グループが地域の覇権を掛けて決闘を行う・・・漫画や映画ではよく見るシーンですね。もちろん、人を殴れば「暴行罪」、それで怪我をさせれば「傷害罪」になるのですが、そもそも決闘行為そのものを処罰しようというのがこの「決闘罪ニ関スル件」です。

この法律は、法律界のシーラカンス、「生きる化石」とも呼ぶべきもので、その制定は、何と明治22年制定に遡ります。しかし、それから現在まで、廃止されることなく連綿と生き続けているというのだからすごいですね。

「関スル件」とは何とも法律らしくない名前ですが、実はこれは正式名称ではありません。そもそもこの法律には決まった名称が存在せず、便宜上、そのような呼ばれ方をされているに過ぎないのだそうです。

さてこの法律、内容としては、

・決闘を挑んだ者・応じた者 – 6月以上2年以下の有期懲役

・決闘を行った者 – 2年以上5年以下の有期懲役

・決闘立会人・決闘の立会いを約束した者 – 1月以上1年以下の有期懲役

・事情を知って決闘場所を貸与・提供した者 – 1月以上1年以下の有期懲役

といったものとなっています。また、決闘の結果、人を殺傷した場合は決闘の罪と刑法の殺人罪・傷害罪とを比較し、重い方で処罰されますし、決闘に応じないという理由で人の名誉を傷つけた場合は、刑法の名誉毀損罪で処罰されます。

そもそもこの法律は、明治の文明開化華やかなりし頃、西洋の決闘の風習が日本にも定着することを恐れて制定されたそうですが、結局、西洋風の決闘は、我が国に広まることはありませんでした。

しかし近年、暴行罪や傷害罪での立件が困難な事件について摘発の道を開くため、本法の有用性が見直されているようで、たまにニュースでもその名前を耳にします。

 

 

●「外患誘致」

 我が国の法律で定められている中で、一番重大な犯罪は何でしょうか。殺人?放火?強盗?いえいえ、それらを上回る犯罪が、刑法の中に定められています。それがこの「外患誘致」です。

 条文を読めば、「外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。」とされており、何と法定刑が死刑しか存在しません。刑法には酌量減軽などといった規定もあるので、同犯罪に及んだからといって必ず死刑になるというわけではありませんが、法定刑の重さという点から言えば、間違いなく日本で一番重大な犯罪でしょう。

 一応内容についても補足しておくと、「外国と通謀」とは、具体的には日本国以外の国家を代表する政府のことを指します。政府と連携する立場であれば、通謀する相手が軍隊などの機関であっても成立しますが、テロ組織などの私的な団体は含まれません。

 次に、「武力の行使」とは、開戦に等しい実力行動を指すとされており、具体的には、陸・海・空軍による侵攻等がこれに当たると理解されています。

 以上が簡単な解説になりますが、なかなか容易に実行できる犯罪ではないとの感想を持たれたことと思います。現に、戦前・戦後を通じて、この犯罪が適用された事例はありません。

このような犯罪が成立する場合には、間違いなく我が国に重大な危機が生じているということですから、願わくば、今後も永遠に適用されることがないことを祈りながら、今回のコラムを締めくくりたいと思います。