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自身の体に「後遺症」が残った場合
治療を受けたけれども、不幸にも「後遺症」が残ってしまうケースがあります。特に、後遺症に関する賠償問題は、一般的に理解がしづらい部分ですので、できる限り分かり易く説明します。
症状固定
後遺症とは、治療が終了しても、まだ身体に残存している症状のことを指します。
ここで、治療が終了した時点とは、いつの時点を指すのかが問題になります。病院に通い続けてさえいれば、「治療」が続いているのかというと、そうでもないからです。
一般に、「治療」というのは、「症状の回復・改善が期待できる医療行為」を指しますので、症状の回復・改善が期待できなくなった状態に至れば、もはや「治療」とは呼べないことになります。
症状固定とは、文字どおり、症状が固定してしまった状態、つまり、症状の回復・改善が期待できなくなった状態を指し、症状固定時点が治療の終了時点ということになります。
後遺障害等級
後遺障害という概念は、労災保険や自賠責保険に特有の概念です。
労災保険や自賠責保険においては、後遺障害を1~14等級(1級が最重度)に区別して認定し、等級に応じて保険金を給付しています。
自身の傷害が、医師から症状固定状態に至っていると告げられた場合は、後遺障害の等級認定を申請します。
ただ、注意すべき点は、労災保険や自賠責保険は、あくまでも「保険」ですので、決められたルールに適合する症状のみを「後遺障害」として認定し、保険金を給付するという「システム(制度)」ですから、本来は、民事上の賠償問題とは無関係です。従って、裁判所は、この後遺障害等級には拘束されません。
そのあたりを厳密に峻別しようとする法律実務家は、民事上の賠償請求においては「後遺症」(≠後遺障害)という言葉を意識的に用いているようです。
もっとも、そうは言いましても、自賠責保険が認定した後遺障害等級以外に有力な裁判資料(医学的資料)が無い限り、裁判所は、自賠責保険の認定に基づいて司法判断を下すことは事実ですので、注意が必要です。
後遺症逸失利益
逸失利益というのは難しい表現ですが、要するに、後遺症の影響で事故前のようには働けなくなり、将来得られたはずの収入(経済的利益)を失ってしまう(逸失)場合の、失われた収入額のことです。
言葉で表現すると簡単ですが、将来のことですので、誰にも正確な金額は分かりません。
そこで、裁判実務では、次のような算式に基づいて金額を確定します。
年収額×労働能力喪失率×喪失期間に対応するライプニッツ係数
何だか余計に分かりにくくなったかも知れませんが、言葉の意味をご説明します。
まず、年収額は、原則として「事故時」の年収額であることに注意が必要です。将来の昇給などは不明確なので、あまり考慮されません。なお、若年者の場合で、将来、平均賃金程度の収入を得ることが見込まれる場合は、平均賃金が参考にされることがあります。
次に、労働能力喪失率というのは、後遺症の影響で、どの程度労働能力が失われているかという観点からの割合です。例えば、自賠責保険などでは、後遺障害等級14級なら5%、8級なら45%、3級以上なら100%などと決められています。
さらに、喪失期間というのは、労働能力を失い続けているであろうと予想される期間です。通常は、67歳までは働けたはずだという推定のもと、「喪失期間=67歳-症状固定時の年齢」とされることが多いです。
最後に、ライプニッツ係数とは、将来の収入を一時金で受け取るために、途中で発生する年5%の利息を複利で差し引くための係数のことをいいます。
これでも、よく分からないと思いますので、もう少し説明します。
逸失利益というのは、あくまでも「将来の収入」を「現時点で賠償」してもらうものですから、例えば、10年先に受け取るはずの100万円を今受け取ることになるわけです。10年先にもらう100万円と今もらう100万円とは価値が違うというのが経済の常識です。仮に、年5%で運用できるとすれば、今もらった100万円は、10年後には複利計算で約160万円になっています。
つまり、この10年分の運用益(これを中間利息と言います)を差し引かないと適正な賠償額が算定できないことになるのです。このことを、中間利息の控除と言います。中間利息の控除は、毎年同じ額の賠償が10年間続く場合、1年先の賠償分についての控除、2年先の賠償分についての控除、……、10年先の賠償分についての控除と順次計算していって合算する必要があります。これでは面倒なので、予め、10年分の賠償なら、どのような定数を乗じたらよいかを提示したのがライプニッツ係数というわけです。
ちなみに、10年に対応するライプニッツ係数は[7.722]です。
事故時の年収が400万円だった人で、労働能力喪失率が5%、喪失期間10年という方の場合、後遺症逸失利益は
¥4,000,000×0.05×7.722=¥1,544,400
となります。
後遺症慰謝料
前述のとおり、慰謝料は精神的苦痛の対価ですから、被害者の内心を的確に把握する方法はありません。
そこで、裁判実務では、後遺障害の「等級」に応じて慰謝料額の基準を定めています。